現代病として恐れられている糖尿病。患者数は年々増えているが、コーヒーはその予防に一役買う可能性があるという。コーヒーが果たす予防のメカニズムとは?
社団法人全日本コーヒー協会では、コーヒーと健康に関する正しい情報をお届けするために全国の研究機関を支援し、最新の研究成果を発表しています。
「皆様にもっと安心して、もっと美味しくコーヒーを楽しんで頂きたい。」このコンセプトのもと、コーヒーと健康に関する研究の成果を国内外より集めました。コーヒーブレイクで、心もからだも健やかに。
糖尿病予防にカフェインが効く?
現代病として恐れられる糖尿病。患者数は年々増えているが、コーヒーはその予防に一役買う可能性があるという。コーヒーが果たす予防のメカニズムとは?
現代病として恐れられる糖尿病。患者数は年々増えているが、コーヒーはその予防に一役買う可能性があるという。コーヒーが果たす予防のメカニズムとは?
2011年に交通事故が原因で亡くなった方は4611人。まだ多いものの「交通戦争」と呼ばれた昭和30年~40年代の最悪期は、死亡者数が1万6000人に上ったことを考えれば、大幅に減ったといえるだろう。しかし、それとは逆に昭和30年代から増えているのが糖尿病だ。現在、糖尿病に関連した病気で亡くなる人の数は年間およそ1万4000人。実に交通事故の3倍以上の方が糖尿病で亡くなっているのだ。そして今、コーヒーは糖尿病予防の役に立つ可能性があるのではないかと注目されている。
コーヒーを楽しみながら、謎の成分に思いを巡らす。
医学に携わる研究者は、病気のメカニズムを明らかにするだけでなく、効果の高い薬の開発もめざしている。もし、運動しなくても運動したのと同じ効果が得られる物質があれば、糖尿病の予防薬や治療薬になるはずだ。
「それが私の研究のメインストリームですが、すでに知られている物質にも、同じような作用をもたらすものがあります。その1つがカフェインです」
カフェインはPGC1αという極めて重要な遺伝子を増やすことができる。だからこそ「コーヒーには糖尿病の予防効果がある可能性がある」といえるのだ。
ただし、誤解してほしくないことがある。もっとも重要なのは「生活習慣を改善すること」という点だ。コーヒーさえ飲んでいれば予防できるという性質のものではない。
「私は1日にコーヒーを必ず5~6杯は飲む『Coffee lover』なんです」と笑う小川氏に、コーヒーの楽しみ方を聞いてみた。
「1日にコーヒーを5~6杯飲む人は糖尿病の発症が少ないという調査結果がすでにあります。その程度の量なら飲みすぎの心配もありません。ただし、眠る前にコーヒーを飲むと人によっては寝つきにくくなるので、それだけは気をつけてください」
コーヒーにはさまざまな成分が含まれている。だから、各種のコホート研究が示すコーヒーの糖尿病予防効果は、カフェインだけでもたらされたものではないかもしれないと小川氏は話す。
「コーヒーは食物ですから多種多様な成分を含んでいます。その中の1つの成分だけが重要であるとは言いきれないのです。複合的な要因があるのかもしれません」
カフェインがミトコンドリアの機能を高めることは明らかになったが、コーヒーはまだまだ謎を秘めている。ならば、味や匂いを楽しみながら、解明されていないそれらの謎に思いを巡らす――。そんなブレイクタイムがあってもよいかもしれない。
小川 渉
(おがわ・わたる)
神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門准教授。神戸大学病院糖尿病・内分泌内科診療科長。医学博士。1984年神戸大学医学部卒業。米国スタンフォード大学分子薬理学研究員などを経て2007年から現職。